還らぬ日々2009/10/06

54年間連れ添った夫が逝ってやがて5年になる。
定年後は静かな所に住みたいという彼の希望で海辺の町に移った。坂を少し登ったところで縁側からは海が180度広がりその向こうに富士山が四季折々、日々刻々に異なる姿を見せてくれる。
築80年の日本家屋は物珍しくて少し手を入れただけでそのまま住んだが個室にしきられない広い空間は解放感があって二人暮らしには快適だった。
朝は浜辺へ、夕方は裏山を鶯や時鳥の鳴き声を間じかに聞きながら二人で散歩した。

自然に恵まれた地は虫や動物も多いということ。 ゴキブリは勿論、ヤモリや大きな蜘蛛が姿を見せ、庭にはシマヘビや時にはマムシが出て来て蛇嫌いの私は大声で夫を呼ぶ。彼は都会育ちなのに駆けつけてやっつけてくれた。 マムシは生け捕りにしてガラス瓶に入れて観察した後、土地の方にさしあげるとマムシ酒にするからと喜ばれた。
野良猫がよく遊びに来るようになり、タヌキも日向ボッコをしにくる、アライグマまで。 アライグマは猛獣だからガラス越しに眺めた。 台湾リスがくるようになって庭のビワの実や夏ミカンはすっかり食べられてしまったが、でも可愛かった。
カラスが近くの木の上に巣を作りヒナになると親の帰りを待ちかねて泣きわめく、「うるさい! カアカア!」と叱ると一時黙るがすぐに前にもまして泣きわめく。
誰にも聞かれる心配がないからカラスとはカラス語で掛け合って楽しんだら或る日カラスのほうが日本語を喋った!
「オカエリー」 九官鳥の親戚みたいなものだからと思うが誰も本気にしてくれなかった。

蝶や蝉の孵化は何時見てもわくわくした。いろんな昆虫がいたし、地中から顔を出したモグラとも目が合った。

夫と二人で暮らした18年間はこよなく大事な想い出。時々そっと出して眺める。
添付したのはその頃描いた小さな油絵です。