学問への憧れ2011/09/05

韮の花
昭和20年、敗戦の年の二学期は何日から始まったのか、もう定かな記憶は無い。
1年生の時は7ヶ月程授業を受けただけで軍需工場で働いたから授業の再開には複雑な思いはあったもののともかく嬉しかった。
油染みた作業服ともお別れ、スカートに白いブラウス、紺の制服を着てノートと筆記用具を抱えて久しぶりに教室に入った時は何とも言えない懐かしさがこみ上げて来た。

戦災を免れた都市だったので古い校舎もそのままだった。
皆の姿には現代の女子学生の様な華やかさとは無縁の化粧気のない貧しさが見えていたけれど教室で勉強出来ることの幸せを噛み締めている表情だった。

私など小学校以来勉強は嫌いで要領だけで泳いで来た。
受験も幸運に恵まれただけだ。
まして女学校の4年終了で受験したから1年分欠損している。
尤も女学校のほうは残っていても学徒動員で授業は受けられなかったのだが。

終戦後、学校に復帰出来た時だけは
「この幸せを感謝してこれからは勉強に打ち込もう」
と高揚した気持ちを日記に書いた覚えが有る。
昼夜3交代、休みは2週間に1日だけ、空襲に怯えて作業着のまま寝る日々の中で活字に飢えていた日々を思い出す。
勉強への憧憬が膨らんでいた。
私にとっては貴重な体験だった。

この殊勝な気持ちも終戦後しばらくしての新しい欧米文化の氾濫に学校以外のことにのめりこんでしまうのだった。
でも勉強に対する憧れだけはこの歳になっても続いている。