掏摸に遭った想い出2011/01/10

無題
1度だけ掏摸の被害に遭ったことがある。
敗戦から暫く経って街には闇市や道端の怪しげな露店でいろんな品が売られていたが凄く高かった。
学生の身で買えなかったけれど、休日は何となく繁華街をぶらついて映画館の看板を見上げたり本屋さんで立ち読みしたりして戦後の自由を楽しんでいたものだ。

そんな或る日のこと、後ろから人がぶつかってきてアレッと思ったら擦り抜けるように小走りで人混みの中に紛れようとしている後ろ姿が見えた。
反射的に手提げの中を確かめると財布がない。
顔は見えなかったが40歳前後の着物姿の奥さん風の人が両腕で抱えるようにして必死な感じだった。
その後ろ姿を見ると何だかとても哀しかった。
品の良い奥さんが追いつめられている感じが伝わって来たのだ。
絶対素人だと思う。 大声を上げる気にならなかった。

財布の中味はほんと小銭しか入っていなかったからガッラリしただろうと同情の念が湧いたくらいだった。
あの頃の学生が大金持ってるわけないのにね。

ただ財布だけは惜しかったな。
姉が北海道の人と結婚して、むこうのお宅に挨拶に言った時のお土産でアイヌ模様の刺繍が素敵なお気に入りの財布だったのに。

闇成金は横行していたが、まっとうに暮らしている小市民にはキビシイ時代だった。