敗戦後の混沌とした中で2009/11/14

右にはマリリンモンローの似顔絵

普通の女の子が、特に大変な事とも思わずに 青酸カリを貰った。
「何か有った時のお守りに 持ってるといいよ」
薬包紙に三角に包まれた白い粉を、アルコールランプで湧かしたビーカーの代用コーヒをよばれた後で冗談半分で貰った二人は
「本物かしら」
「でも自決用にって配ったとこもあるそうよ」
と呑気にお喋りしながら帰った。

まだ何が有っても可笑しくない混沌とした世の中だった。
ちまたには戦災孤児と飢えた人達が闇市に群がり、進駐軍のジープが走り回っていた。
若いってのは強い。 環境に慣れ、それなりに青春を楽しみ、戦争で生き残っただけ幸せと未来に明るい希望を託していた。

数年後、世の中も秩序を取り戻して、2人のうちの一人は結婚して他所の地に行った。
しばらくして風の便りにその友が自殺した事を聞かされて「あんなに明るくて可愛かった彼女が どうして 何があったの?」
あとで聞いた話しでは、失恋して青酸カリ飲んだとか、妊娠してたって と。
もしかして あの時貰ったのをまだ持ってたの?
近くにいたら相談相手くらいにはなれたかもしれないのに、独り悩んだだろう彼女が ただただ可哀想だった。 無念だった。
あの時 あんなもの貰わなければ。 断ればよかった。

残されたほうの一人は「あれ どうしたっけ。 捨てた覚えはないし、確か机の引き出しの奥に隠したままかも」 引っ越ししたし、家を出ちゃったし、今更誰にも言えないで悩んだが、大事に保管してないと風化して無害になると聞いて少し安堵したそうだ。
事故も起こらなかった。 真相は闇の中。

この贅沢な時代に自殺は多いと聞く。 あの貧しい時代も身近な若者が何人か自殺している。 いつの時代も変わりはないのかも。